番外編--プレドクって何?:経済博士をするまでの経緯(中村の場合)

こんにちは。渋谷さん鈴木さん鈴木さんに続いて今回は私の経験に基づいた、経済学の博士号取得を考えている方向けの情報をまとめていこうと思います。今回は簡潔に自己紹介をした後、経済Ph Dプログラム出願において私が経験したリサーチアシスタント(いわゆるプレドクと呼ばれるポジション)についてまとめていこうと思います。日本語での情報が比較的少ない内容だと思うので、どなたかのお役に立てれば嬉しいです。

(Disclaimer: 私自身が開発専門なので、開発の実証実験に関わるポジションの内容に傾いたまとめかも知れません。また私自身が主に日本国外で教育を受けており、そもそもまだ博士課程4年目のひよっこで、さらに内容も私個人の独断と偏見で選んだものなので、必ずしも情報の正確性や妥当性は保証できないのでご了承ください。)

自己紹介

現在カリフォルニア大学デイビス校(UC Davis)の経済学博士課程4年目で、開発経済と環境経済に興味があります。ですが現在メインの研究テーマは途上国におけるオンラインプラットフォームを使った介入実験で、パキスタンをメインのフィールドにして研究をしています。高校、大学をアメリカで過ごし、その後教育経済の政策研究所、開発経済の研究助手(いわゆるプレドク)、イギリスの経済修士、また開発のプレドクをし現在に至ります。

0) そもそもプレドクって何?

学部か修士を卒業後、フルタイムでアカデミックエコノミストの元で研究を手伝う人たちの事を、多分過去3、4年で「ポスト・ドクトラル(ポスドク)みたいな感じで研究助手のポジションにカッコいい名前つけよう」という風潮のもと使われるようになった言葉です、多分。

1) 博士課程進学をする観点からのプレドクをする戦略的な意義

恐らくこのブログを読まれている方の一定数が経済系博士課程進学を考えられていると思います。そもそも根本的にプレドク(あるいは海外の教授との繋がりを作るという意味で海外経済修士)を経由することで合格する確率が上がるの?という事を私だったらまず考えると思います。個人的な意見は「プレドク(、海外修士)がここで与える影響は多分そこまで大きくない」だと思います。院生の出願審査をされている教授方の見解を直接聞いたわけではないのですが、多分「基本的には学士と修士の学業成績を大学の知名度や過去の出身生のパフォーマンスなどを加味して評価し、プラスGREの点数などをみてあとは結構誤差範囲」なのだろうと勝手に思っています。他の学問と比べても経済学は良くも悪しくも客観的、データ重視だと思うので、コネクションや過去どの先生についてやっていたとかだけでランキングが圧倒的に違う大学院に入れることはないと思います。

ただ、推測ですが比較的同じような学生の中で甲乙をつけないといけない場合(例えば最終的な合否判断、資金援助や待遇などの決定)や、大学の教授がどこまで合格した新入学生候補の人にアプローチするかなどの差はあると思います。推薦状のネームバリューや質なども、プレドクや海外修士のメリットかも知れませんが、私自身正直どのようなプロセスで書き手や読み手が判断をしているかは分からないので、ここは敢えてノーコメントにしておきます。重ねて申し上げますが、私はただの院生なので本当のところはよくわかりません。

2) 研究助手(プレドク)をやる意義

じゃあ何で(博士課程に進みたいと強く思っているのであれば)プレドクのような遠回りをするのか、という妥当な疑問が湧きますが、私の場合は以下の理由だと思います。

  • 学部の時より直接研究のプロセスを体験でき、かつ博士課程独特のストレスや執筆のプレッシャーがないので、比較的リラックスして「経済学者になりたいか」判断するための情報が得られる。
  • 場所によってはいろいろなアメニティー(聴講や割安の大学単位、セミナー参加)が充実しているので自らの研究興味の探索や博士課程への準備が気ままにできる。
  • 開発経済、特に介入実験に興味がある人は、博士課程で中々直接時間を裂けないけど、いわゆる「教科書で学べない」事(グラントライティング、チームマネジメント、サーベイデザイン)を経験できる。(私の直感で言うと、開発経済の実証実験系の院生の大多数はどこかでリサーチアシスタントをしている。)

私の場合はアメリカとイギリスでリサーチアシスタントをして、いろんなセミナーにちゃっかり参加し、かつフィールドのザンビア共和国に1、2ヶ月ほど送っていただきました。授業もアメリカではトータルで2、3クラス取ることができ(確か1クラス500ドルぐらいでよかった)、様々な大学の先生方と知り合えたりアドバイスをいただけたりしたので、正直とても楽しかったです。その中で環境経済に興味が湧き、国際N G Oや企業など実務をされる方々とコラボレートしながらする研究の形を目指すようになりました。

3)研究助手(プレドク)の業務、日常

分野、実証・理論へのより具合、教授陣のスタイル、などいろいろな要素があるので一概には言えないと思いますが、恐らく大まかには:

  • 完全な理論研究でない限り、メインの業務はデータ処理、解析、プラス研究に関する雑務一般。複数に同時進行している教授のプロジェクトの中から1つか2つに配属されて、データを収集、クリーニング、管理、して教授の指導のもとで解析をしてその結果を報告。
  • 週に何回か教授や共同研究者に報告をして、フィードバックをもらう。それ以外は結構フレキシブルなので聴講やセミナーに参加する時間が作りやすい。
  • セミナー発表の前になると、プレゼン資料作りに追われて結構忙しい。

開発経済の実証実験プロジェクトのプレドクの場合は:

  • 大まかに北米、ヨーロッパの教授の所属先の大学で遠隔で主にデータ管理と解析に携わる人と、実験の行なわれている現地ベースでプロジェクトマネジメント、実際の介入の手伝いをする人の2種類に分かれる。
  • 一般的な研究助手の業務以外に現地でデータ収集や介入を行うチームとの連携が多い。毎日ゴリゴリデータ分析、というよりもサーベイがうまくいっているか、とか予算がちゃんと回っているか、などいわゆる実務的な内容の仕事の場合もある。

4)研究助手(プレドク)のポジションの探し方

大きく分けると、学士、修士卒の研究助手の雇い先は

  • メインの研究者の所属先の大学(募集は大学の研究機関から出るときもあるし、教授個人のファンドがある人もいる)
  • 研究者とフィールドの掛け渡し役的な存在の団体(JPAL, Innovations for Poverty Action)
  • 世銀などの国際機関、あるいはアメリカであれば連邦準備銀行などの政府機関。
  • その他非営利団体(例:International Rescue Committee)や国際開発コンサルティング(ID Insights)などの研究者との連携や独自の研究機関がある団体。あるいはシンクタンクやゲイツ財団などでも政策研究などのポジションがあるはず。

これらの募集は以下のような所で見つけられると思います。

  • ツイッターの#econ_ra
  • National Bureau of Economics Research (NBER)のウェブサイト
  • JPAL/IPAはJPALのサイト上で数十のポジションがまとめて募集をかけており、大体毎年1月ぐらいにrecruitment driveがある。

5)振り返って、「もう一度やり返すならこうする」と思う事

  • フィールドでの経験を積む:私自身はアメリカとイギリスの大学所属で、現地に赴くことがあまり無かったので、今思えば数ヶ月、あるいは1年実際にフィールドで研究の手助けをするポジションも経験しておけばよかったと思います。ただアメリカやイギリスの大学の環境の中で多くのことを学べたので、フィールドで1年や2年のコミットメントがあるポジションの機会費用はある程度高いのかも知れません。
  • 教官との共同研究にこぎつける:アメリカとイギリスの大学所属で教授との繋がりがあったので、もう少し自分の研究になる事に時間を割いておけばよかったと思います。実証実験のリサーチアシスタントで、プロジェクトの費用や体制の問題からそこに直接混ぜてもらうことは難しかったので、しょうがないのかも知れませんが。
  • アカデミックエコノミクスの世界から一回離れる:私の場合は学部と博士課程入学の間もプレドクや修士などをしていたので、一度経済学と距離を置いて自らの進路についてもう少し多角的に考えてみてもよかったのかも知れないとも思います。

最後に

以上、私の経験をもとにプレドクの事についてまとめてみました。私の勝手な意見が多くなってしまったかも知れませんが、学部から博士課程に進む過程に関する一例として、参考にしていただければと思います。具体的すぎてまとめきれなかった事(例えば就労ビザ)もあるので、もし質問等があれば本ブログの方か私に直接ツイッターで(@NakamuraShotaro)お問い合わせください。

また本ブログ記事に対するご感想や、本ブログ全体に関わるご意見などもありましたら、下にコメントを残すか、econ.blog.japan@gmail.comまでご連絡ください。 また、Twitterアカウントの@EconJapanのフォローもよければお願いします。Twitterでの本ブログのコメント・拡散も歓迎です。その際は、#econjapanblogをお使いください!

中村昌太郎

Written on November 20, 2020