番外編:博士をするまでの経緯(元橋の場合)

こんにちは。前回の鈴木さんの番外編に続き、今回は私(元橋)が経済学部・国際関係大学院(フレッチャースクール)の合同PhDプログラムで博士をするに至るまでの経緯についてお話したいと思います。私は学部のバックグランドが法学部で経済学に転換したタイプ+社会人経験を経た後のPhD留学なので、その経緯や苦労したことなどを共有できればと思います。

もし追加で聞きたい情報があればこの記事にコメントを残す、econ.blog.japan@gmail.comまで連絡する、Twitterアカウント @EconJapan に連絡するなどの方法でコンタクトしていただければ、できる限りお答えします。

自己紹介

現在、タフツ大学経済学部・フレッチャースクール博士課程3年生です。本プログラムは、タフツ大学の経済学部とフレッチャースクール内の経済学者が協力して3年前に出来た新しいプログラムで、実証系の経済学に関心がある生徒が集まっています。ただ、コアコースでマクロもしっかりあるので、いわゆるPhD in Public Policyよりは、もう少しPhD in Economicsに近い形です。ミシガン大にもPublic Policy & Economics PhDという似たプログラムがあるようです。5年間Fellowship付きで財政的には恵まれたプログラムなので、興味のある方は是非アプライ+私まで相談ください。

経歴としては、東京大学法学部を卒業後、東京大学公共政策大学院を修了し、三菱総合研究所で研究員として4年半ほど働きました。その後、会社を退職して博士課程に進学しました。

なぜ経済学のPhDをすることになったのか、一言で答えられず、人生で色々と選択しながらたどりついたので、高校から博士課程進学まで時系列で振り返りたいと思います。

(i) 高校

まずは、高校の頃の話から始めると、理系と文系を決める際に、テレビで明石康さんや緒方貞子さんの活動を紹介している国連での仕事を知って、国際公務員のように世界を舞台に働くのってかっこいいなぁと漠然に思い、文系にしようと思いました。理系だとそのままメーカーで研究者になって人生終わる確率が高いなぁと思いつつ(でも、CSの流行りが事前に分かっていたら理系に行ってたかもしれません)。

文系の中でどの学部を志望しようと思っていた時、数学が得意+親の影響で経済学もありかと思っていたのですが、国際公務員なら国際法、国際政治の素養が必要そう、ランキングが高い方が良いということで、結局法学部を志望することになりました。

(ii) 学部

東京大学に入って前半の教養課程では、あまり法律はワクワクせずに、学部向けの経済学の授業を受けていたのが、最初に経済学に触れたきっかけでした。その時は、正直抽象的なモデルを扱っているなぁという感じでしたが。でも、割と自分は得意な方だという感触はありました。

学部前半にあまり勉強せずにサークルに集中したころもあり、エスカレーター式に法学部に進学しました。学部後半の授業で猛勉強し始めたことで、段々と法律・政治学の楽しさが分かり始めました(何事も深く勉強しないと面白さは分からない)。その時、まだ国際公務員として発展途上国の開発に関わりたい夢は持っていたため、その道に行く人が多い国家公務員をまず目指すことにしました。

その結果、公務員試験は通ったものの、官庁訪問で失敗しました。そこで、もう一度人生を考え直すために、公共政策大学院に進学しました。

(iii) 大学院(修士)

修士の当初の志望動機は浅はかでしたが、人生を変えるほど学びがあって人生観が変わったので、結果的に良かった選択でした。

まずは、経済学の基礎科目を受けて、演習系の授業を受けられたのは大きかったです。社研の松村先生とRIETIの戒能先生のゼミで、初めてデータを使って色々と実証の研究でこんな面白い結果を出す事ができるんだと分かりました。学部で受けた経済学の授業と大違いでした。また、統計学・計量経済学の授業を受けて楽しさが更にわかりました。

次に、今までは国際法の強みを生かして国際公務員になろうとしていましたが、受講した授業の関係で、エネルギー政策・環境政策に興味を持つことになりました(東日本大震災でエネルギー政策が注目がされたことも大きいです)。その後、その分野で強みを発揮しようと思うようになりました。

(iv) シンクタンク勤務

そこで、専門を深められる場所として、シンクタンクで勤務することにしました。幸運なことに、環境エネルギーを扱う部署に配属され、興味のあったアジア諸国の水衛生問題・廃棄物問題の調査や、それに対するインフラ輸出の仕事をすることになりました。ここで、現地調査等を通じて各国の課題や現地政府の考えを知ることができたのは、大きな収穫でした。その際の学びは、現在の研究でリサーチクエスチョンを考える際にも、役立っていることを感じます。また、社会人として、人と関係を築くスキル、プロポーザルを書くスキル、打ち合わせを上手く設定し進めるスキルも身についたと思います。途上国のカウンターパートと仕事を進める歳の大変さや、コツも学びました。三菱総合研究所は素晴らしい職場で、育ててくださった先輩方や、同期・後輩、仕事で関わったクライアントには感謝しきれません。就職先を考えている方にはオススメ出来る職場です。

(v) 博士課程への出願

環境・エネルギー分野、特に水衛生分野で国際機関で貢献したいと考えている時に、仕事を通じて世銀やADBが大きなプレイヤーであることを知ったので、そこを目指すためにどうしようかと考えました。エンジニアリングのバックグランドがない自分としては、エコノミストとして貢献するのが良いと思った他、世銀やADBでは博士を持っている人が多いため、経済学の観点から研究できる博士課程を目指すことにしました。

ただ、周りに同じように目指している人がいない中、そしてピュアな経済学のバックフランドのない中、暗中模索でした。そこで、知り合いを辿って、経済学の博士留学をした方から色々とお話を伺し相談しました。ここで相談して励ましていただいた先生方には大変感謝しております。

また、学術界の動向をキャッチアップするために、環境経済・政策学会の年次大会に参加したのですが、そのセッションで聞いたRCTの手法に衝撃を受けました。その時に、研究者でも面白い道があるなぁとも思い始めました。現地のフィールドで実験を行う研究こそが自分がやりたい研究だとピンときて、博士課程への出願準備を加速しました。

自分の弱みとして、数学の授業を受けていないこと、経済学研究科の大学院レベルのコアコースを受けていないことがありました。そこで、まずは純粋な経済学博士課程は出願対象から外して、公共政策学博士のプログラムを探しました。ただ、公共政策学博士のプログラムでも、定量的なバックグラウンドを重視するので、その当時から取り組めることとして、一通り実証研究を行いWriting sampleとしてまとめようとしました。運がよく、環境経済・政策学会でメンターとなる方が見つかったこともあり、その方に指導を受けつつ、そのペーパーを書き上げました。今思えば、経済研究科でもう一度修士を取った上で、博士課程の出願をしても良かったと思いますが、後の祭りです。数学の授業を受けていないことは放送大学の授業を取ることなのでも手当も可能ですが、その時には間に合いませんでした。独学でA.C.チャンの「現代経済学の数学基礎」などを読んでたのですが、それをSOPで言及するしかなかったです(あまり効果はないと思いますが・・・)

出願は、Environment and Development(発展途上国を対象とした環境経済学の研究)をしている先生がいる大学、かつ、環境経済学系か公共政策学系のプログラムということで、Tufts (Economics and Public Policy), Duke (UPEP), Harvard (Public Policy), Yale (School of the Environment), Chicago (Public Policy), RAND (Public Policy), Columbia (Sustainable Development), LSE (Environment and Development), SOAS (International Development)を受験しました。

結果としては、Tufts (Economics and Public Policy), RAND (Public Policy), LSE (Environment and Development), SOAS (International Development)に受かりましたが、財政支援と経済学寄りの観点から、TuftsのEconomics and Public Policy Programに進学することにしました。

(vi) 現在の状況

バックグランドは法学部でしたが、今ではすっかり経済学大好きです!博士課程でのコアコースも辛いと聞いてましたが、とっとも楽しかったです。学部から経済学を専攻していれば良かったと今は思いますが、もう仕方ないですね。でも、せっかく法律や政治のバックグラントがあるので、法と経済学やPolitical economyの観点も入れた研究もしたいなぁと思います。人生に無駄はないことですね。

また、以前は国際機関志望でしたが、博士課程を始めて、研究者志向になりました。実証系の経済学は、現場に根付いた研究をしているので、すっかり魅了されています。これからは着実に良い研究を成果を上げていきつつ、現場への貢献の観点も忘れずに研究を通じて貢献していきたいです。

最後に

読んでいただきありがとうございました。なかなか一貫性のない経緯ですが、こういう例もあるんだということを分かっていただければ幸いです。

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元橋一輝

Written on November 15, 2020