番外編:応用経済の博士をするまでの経緯(鈴木の場合)

こんにちは。前回の渋谷さんの番外編に続き、今回は私(鈴木)が応用経済学部で博士をするに至るまでの経緯についてお話したいと思います。とはいうものの、どういう情報に需要があるのかよくわからないので、とりあえず「自分のしてきたことをざーっと書く」というスタイルを取ることにします。不必要な情報が多いでしょうが、それぞれで情報を取捨選択していただければと思います。もし追加で聞きたい情報があればこの記事にコメントを残す、econ.blog.japan@gmail.comまで連絡する、Twitterアカウント @EconJapan に連絡するなどの方法でコンタクトしていただければ、できる限りお答えします。

以下では大まかに、(i) 学部三年生まで、(ii) 学部4年生(+大学院進学の準備)、(iii) 大学院(+ Ph.D.出願準備)に分けて書いていきます。なので、想定する読者はこのいずれかのステージにいる方です。うまくいかなかったことが多いので、ここの情報は良い見本として受け取るのではなく、「こういうことをした人がいた」ということを知って「自分ならこうする」と考えるために使っていただくのがいいかなと思います。

ちなみに、Ph.D.出願では以下のページがとても参考になると思います:

経済学の大学院進学に興味がある方は、Yale大学の伊神先生による「経済学の修士に興味がある大学生」を主な参加者とするSlackのワークスペースに参加するのがいいと思います。

軽く自己紹介

現在はウィスコンシン大学マディソン校応用農業経済学部博士課程5年生です。京都大学農学部食料環境経済学科を卒業後、一橋大学経済学研究科で修士号を取得し、博士課程一年目の8月から現在の大学に留学を開始しています。専門は開発経済学です。

(i) 学部三年生まで

経済学を初めて学んだのは二年生のときに履修したミクロ経済学、マクロ経済学の授業でした。同時に開発経済学の授業も履修していて、途上国で見られる現象をモデルを用いて記述するのが面白いなと思い、興味を持ち始めました。浪人生時代にグラミン銀行の記事を読んでから貧困問題に興味があったこともあり、大学院にいってもっと深く勉強したいと思ったのが大学院進学を目指したきっかけでした。このときはそのまま京都大学農学研究科に進学しようと考えていました。

学部三年生までにとった経済学の授業は基本的にこれだけでした。数学は一年生のときに線形代数と微積分の授業をそれぞれ一学期分履修し、統計・計量経済学の授業はとっていませんでした。ラグビーが好きでオーストラリアに行きたいと思っていたので英語の勉強はしていて、2年の後期から一学期シドニー大学へ交換留学をしました。TOEFLは一年生ではじめて受けたときは60点前後で、一年間勉強+何度も受験して、4回目の受験で90点(学内選考の足切りラインギリギリ)になりました。

このときは全く知る由もなかったですが、東大や一橋(おそらく京大も?)の経済学部の優秀な方たちは学部3年時に大学院のコースワークを履修し優秀な成績をおさめ、そのままクオリティの高い卒論を書く、ということをしているのを後に知りました。こういった方たちに比べると私は二年分くらいラグがあったなと思います。

(ii) 学部四年生 (+ 院試の準備)

学部3年の終わりに参加したプログラムでワシントンDCの国際機関などを訪れ、京都大学のOB・OGの方々が活躍しているのを見て、「専門性を活かして世界で活躍したい」と感じました。このプログラムで海外Ph.D.が国際機関の就職に有利と聞き、海外大学院でのPh.D取得を目指し始めました。(ただ、今思うと国内大学院卒でも国際機関で働いていらっしゃる方もいるので、この情報は必ずしも真ではないかもしれません。)

大きい大学が固まっているのでネットワーキングに有利、セミナー等が活発、といった理由から東京の大学の大学院を目指そうと思いました。(これも今思うとそこまで正しくないような気もする…)出願したのは一橋大学とGRIPS、京都大学農学研究科でした。東京大学の経済学大学院は、私が受験する年には writing sample の提出が必要で(今はどうかわかりません)、期限に間に合わなかったので諦めました。

一橋大学の受験勉強には、ミクロには奥野ミクロ演習本も)と荒井ミクロ、マクロにはブランシャール中谷マクロを使いました。今だったら神取ミクロNew Liberal Arts Selection のマクロ本を使うだろうなと思います。計量経済は入試にでませんでしたが、卒論で使うので浅野・中村で勉強しました。今なら他の教科書を使うかもしれませんが、ちょっと詳しくないのでわかりません。ついでに4年生の前期に統計学の授業を履修して、統計学入門の教科書を読んでいました。

GRIPSの入試は面接のみだったので、基本的に卒論を進めてそれについて喋れるようにする、という準備の仕方をしました。GRIPSの面接は英語面接で、当日面接の部屋に入ってから知ったのでちょっと大変でした。

京都大学農学研究科の院試は英語試験、農業経済に関する記述試験、そして面接という構成でした。この本この本を読んで準備しました。

受けた大学院はどれも合格して、どこへ進学するか迷いましたが、基本的な経済学からしっかり勉強したいなと思い、その点で強みがありそうな一橋大学への進学を決めました。ちなみにGPAは3.7/4.0で、TOEFLは108点でした。TOEFLについては、一橋の同期で60点前後という人もいました。

卒論は途上国ミクロデータを使った分析でしたが、Stataは学校のパソコンで使えなかったこと、Rのようなソフトを使うことは頭になかったことから、SPSSを使っていました。今ならRを使えるように勉強すると思います。ちなみに、悪い先輩にそそのかされてVimの使い方を学んでいて、この経験は今でも活きています。キャリアのどのステージにいるかに関わらず、自分にあったテキストエディタを見つけるのは超重要だと思います。

なお、ここまで(このあともほとんど)途上国に行った経験はありませんでした。開発経済学を専門にしているのに、これは本当に良くなかったなと思っていますが、じゃあどうするのがよかったのか、よくわかりません。また、アメリカに来てから、学部生のうちからRAをしたり世界銀行で夏期インターンをしたりという人を見るので、途上国に行くということに限らず将来の準備として何かできることがあったかもしれないなとは思います。

卒業後、大学院入学までの間にSimon & BlumeMWGのAppendixで数学の準備をしておきました。これはしておいてよかったなと思います。

(iii) 大学院 (+ Ph.D.出願の準備)

コースワークは特別なことはなく、いい成績をとれるように頑張って勉強したという感じです。数学に関しては「経済数学」「測度論」「複素解析」の授業をとりました。最後の2つはPh.D.出願のときに「数学できますよ!」というシグナルになるかなという思いもなくはなかったですが、ほとんど趣味でとった感じですし、このシグナルの効果がどれくらいあったのかわかりません。 フィールドコースは開発経済学の他に、労働経済学(というかほとんど因果推論の授業)とIOの授業をとっていました。

M1の夏休みにトルコ農村部でのフィールド調査にRAとして参加しました。また、M1の後期からは別のプロジェクトのRAとして働き始めました。このRAでStataを勉強して、修論もStataで分析を行いました。RはM2の後期に履修したIOの授業で初めて勉強しました。ちなみに、Pythonは留学前にちょっとだけ勉強し、Matlabは一切触れたことがありませんでした。

Ph.D.の出願はM2の秋にしました。出願校は

UC Berkeley (ARE), UCLA, Stanford, UCSD, LSE, Cornell (Applied), Brown, Northwestern, UW Madison (AAE), Illinois (Ag), UC Davis (ARE), Maryland (ARE), Michigan

でした。合格校は UW Madison, UC Davis, Maryland で、UW Madisonを選びました。客観的に見てもあまりうまくいっていないPh.D.出願と言えると思います。

UW Madisonのオファーは5年間のRAship付きでした。ちょっと細かい点ですが、UW MadisonのAAEは入った時点で指導教官が決まっているような感じで(もちろんあとから変更もできる)、不確実性が小さいのがありがたかったです。

一橋でのGPAは4.0/4.0、TOEFLは108点、GREは Verbal = 158 (79%)、 Quant = 170 (98%)、Writing = 3.5 (38%)です。(当時も今もよくわかりませんが、これ多分Writingひどいですね…)Statement of Purpose は帰国子女の友人に添削をしてもらったりしましたが、英語ネイティブの writing の先生に添削してもらった人もいて、これはもっと力をいれるべきだったなと思います。推薦状は一橋の指導教官、京大時代の指導教官、一橋のコアミクロ・経済数学の先生に依頼をしました。

その他

私は留学を開始したときには結婚をしていて、当時妻は日本で働いていました。結婚相手が日本で働いていると、留学をしたときについてきてもらうのか、その場合キャリアはどうするのか、といったことへの不安が大きいと思います。

私達の場合、留学を開始してから一年後に妻にマディソンに来てもらいました。その後、妻はUW Madisonのコンピューターサイエンス(CS)学部の修士課程に二年間在籍し(厳密には1年目は capstone program という修士プログラムへの準備コース、2年目に正式に修士コースを履修)、この12月で卒業、その後はマディソンでフルタイムの仕事を始める予定です。CSはSTEMフィールドの一つなので、OPT (Optional Practical Training)を使って卒業後数年間はアメリカで働くことができます。妻はCSのバックグラウンドがほぼない状態からのスタートで、授業も就活も大変そうでしたが、その状態からでもアメリカでキャリアを始めることは可能(そしてこの経験はアメリカ以外に行くことになっても役立ちそう?)だと言えると思います。

最後に

読んでいただきありがとうございました。参考になる点は多くないかもしれないですが、これから大学院進学を考えている方、Ph.D.留学を考えている方が「ああ、こういう感じなのか」と雰囲気を感じてもらえればいいなと思います。

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鈴木

Written on November 5, 2020