Cortés, Gamboa, and Rodríguez-Lesmes (2020): Contraception, Intra-household Behavior and Epidemic: Evidence from the Zika Crisis in Colombia

2月は1月の御目出度いトピック「祭り、慣習、宗教」から一転して、「感染症、疫病」と悲しいですが、タイムリーなテーマでブログを書いていきます。

今回はこのトピックの第一弾はジカ熱と生殖パターンの関係について書いた、CortésさんGamboaさんRodríguez-Lesmesさんによるワーキングペーパーです。 本文はこちらからどうぞ。

概要:

本文は2015年ー2016年初頭にかけてコロンビアで起こったジカウィルス感染症集団発生が生殖行動にどの様な影響を与えるか実証します。

ジカウィルス感染症ネッタイシマカにより人間に感染する病気。主症状は発熱、結膜充血、筋肉痛、関節痛、頭痛等。同じ蚊を媒体とするデング熱と比べると症状は軽く、無症状の傾向も高いが、ジカウィルスが母子感染し、胎児において小頭症につながる可能性があると分かり、2016年1月にコロンビア政府は妊娠している女性を特に対象としてこの可能性を知らすキャンペーンを行った。(後に、[米疾病対策センターはジカウィルスと小頭症の関係は因果関係であると断定]した(https://www.afpbb.com/articles/-/3083908?pid=17759799)。)

胎児対して大きな影響があると懸念された為、著者はジカウィルス集団発生が生殖行動及び性行動に影響すると仮定します。

実証方法

主な実証方法は操作変数法を使って行われています。独立変数である自治体毎且つ月毎の1,000市民に対するジカウィルス感染件数は、従属変数である個人の性及び生殖行動と同時性があると考えられます。ジカウィルスは蚊が媒体ですが、コロンビアの集団発生はブラジルからの感染者から始まったものと考えられており、人の動きがジカウィルス件数に影響を及ぼす可能性が否めません。

よって、本文ではジカウィルス感染件数を内生変数として扱い、各自治体の海面高度、平均気温及び都市部かどうかといった因子指標化した外生変数を利用し、因果関係を推定します。

データ

個人及び世帯の行動は、ジカウィルス危機前に集められた2009−2010年度と危機中に集められた2015−2016年度のDemographic and Health Survey(DHS)を使い観測します。ジカウィルスに関するデータは、コロンビア政府が集めるNational System of Public Health Surveillanceを使います。

推定結果

主な推定結果を以下の通り。

  1. ジカウィルス件数が自治体内で増えると、独身女性は性行動を減らすが、既婚女性は減らさない。
  2. ジカウィルス件数が自治体内で増えると、既婚女性は近代避妊法(低量経口避妊薬、パッチ、注射、子宮内避妊用具等)を使い始める。また、元々使っていた人は使用頻度を増やす。

この様な既婚女性の行動を、著者は夫婦感の生殖決定におけるモラルハザードの現れと説明する。このモデルにおいて、夫は子供がいないことに対して怒りを持つため、「難しい」旦那さんになる。よって、ジカウィルス危機によって夫による暴力が増える可能性があるが、データではこの様な観察はされなかった。

意見:

感染症危機がどの様に人の行動、特に性及び生殖行動を影響するかあまり考えたことがなかったので、とっても勉強になりました! ふと思った事を以下に並べます。

  1. 本文では女性が持つジカウィルスの胎児に対するリスクに関する信念がジカと生殖行動を結ぶキーですが、文中では政府がどの様にその情報を広めたのかあまり書いておらず、どの程度情報が広がったのか見えづらいかなとおもった。
  2. 文中では女性の教育レベルと年齢グループによってもジカウィルスの影響が変わる事を書いているが、既存の子供の人数によっても変わるかなと思う。というのも、既存の子供の人数によって、「子供欲しい度」が変わるはずで、子供が今一人もいない人は、いる人より子供が欲しい為ジカのリスクに対する考え方が変わるかもしれない。

最後の一言

今回も最後まで読んでくださってありがとうございます!

本ブログ記事に対するご感想や、本ブログ全体に関わるご意見などがあれば、econ.blog.japan@gmail.comまでご連絡ください! Twitterでの本ブログのコメント・拡散も歓迎です。その際は、#econjapanblogをお使いください。

ありがとうございました。

渋谷

コメント

中村:

健康リスクが生殖行動に与える影響、興味深いです。私が特に興味深いと思ったのは、近代避妊法の使用によって家庭内暴力や女性の出費への影響は見受けられなかったと言う点です。この論文の中でも引用されていたAshraf Field Lee(2014)のランダム化比較試験の中では以下の様な結果が出ています。

  1. 夫婦で一緒に近代避妊法の使用を促す介入を受けると、女性のみで介入を受ける場合に比べて家族計画に関するサービスを受ける割合が減り、隠蔽性のある避妊用具の使用率が下がり、出産率があがる。
  2. ただ同時に、女性のみで介入を受けた場合、女性の主観的幸福度が低下する。これは避妊を隠して行うことには精神的なコストがあるからだと見受けられる。

これらの点は家庭内関係、経済学的に言えば交渉のプロセスと関連していて、なかなか一筋縄ではいかない難しい問題だと思います。国際援助、あるいは女性のエンパワーメントの視点から考えると、避妊具の使用、特に隠蔽性のあるものは一見女性の地位向上に一律に役立つと言う視点もあると思います。ですが既存の家庭内関係、そして生殖決定におけるモラルハザード(女性側が独断で避妊できる)、それによって起こる精神的なコスト、など複数の視点も重要と言う検証結果なのだと理解しています。

ですので、今回のジカウィルス感染症集団発生が生殖行動に与えた研究結果の中で、家庭内暴力などへの影響がなかったのは、そもそも上記のモラルハザードや精神的コストの問題は普遍的ではないのか、それとも何らかのメカニズムのもとで夫婦関係に影響を与えなかったのか(例えば夫婦両側で妊娠、出産に関するコストへの信念が均等に変化して、生殖行動に関する意見の相違を生み出さなかった、とか)、もう少しメカニズムに関しても深掘りしてほしい、と思いました。

元橋:

ジカウィルスが胎児に対してリスクがあるとは初めて聞きましたが、このようなこともあるのですね。独身女性と既婚女性で行動が違うのは面白い結果ですね。

あとは、ジカウィルスの話を聞いたことから、他のウィルス(今のコロナも?)に対しても科学的根拠がなくても同じように反応したりしないのか見てみるのも面白そうに感じました。ただ、そのために、政府の同キャンペーンの地域ごとのIntensityのデータが必要になりそうですが。ラジオによるものなら地形上の制約も使えるかもしれません。

鈴木:

「ジカウイルスが胎児に影響を与えるので、その一つ前のステップである生殖行動への影響をモデルとデータを使って考えてみよう。さらに性行動と関わりの深いDVについてもみてみよう」という研究だという理解です。 この計量分析でキーになるのが外生的にジカウイルスの感染率を変化させる要因で、それを地理的な要因に求めた、ということだと思います。 完全には理解してないのですが、どうやらいくつかの地理的要因を使って「ジカの発生の予測値」を作って、それをIVにしているようです。 ここでなぜ地理的な要因を直接IVとして用いなかったのか、ふと疑問に思いました。

ジカウイルスのDVへの影響が観測されず、これがモデルの予測と異なるという点については、これもじっくり考えたわけではなくはっきりとは言えませんが、モデルをぱっと見た感じ、避妊による出産確率の低下とジカウイルスによる健康な子供が生まれる確率の低下がモデル内でごちゃまぜになっているような印象をうけます。 ひょっとするとですが、このあたりを丁寧に分けた定式化をすると異なる理論予測が得られるのかもしれません。

文献:

Ashraf, N., Field, E., & Lee, J. (2014). Household bargaining and excess fertility: an experimental study in Zambia. American Economic Review, 104(7), 2210-37.

Cortés, D., Gamboa, L.F. and Rodríguez, P., 2020. Contraception, Intra-household Behaviour and Epidemic: Evidence from the Zika crisis in Colombia (No. 018443).

Written on February 5, 2021