Ferraz and Finan (2008): Exposing Corrupt Politicians: The Effect of Brazil's Publicly Released Audits on Electoral Outcomes

お久しぶりです!3月は(毎度ながら自分のせいですが)ちょっとキャパオーバーだったので勝手に臨時休業しました!w 4月からは気持ちを新たに継続的にブログと書くようにしていきたいと思います。(自分の勉強のためですしね。)

今回は最近開発経済のクラスの一環として読んで面白かった上述の論文を紹介します。 論文はこちらからどうぞ。

概要

この論文の一番の目的は「汚職が投票者にバレると選挙結果にどう影響を及ぼすか」をブラジルからのデータを使って実証することです。

机上の理論では、民主主義制度において、在職政治家の汚職が表面化すれば投票者は選挙時に投票権をもってその政治家を罰するため、再選されないという予測が考えられます。ただし、この理論上の仮説は投票者が政治家に関する完全な情報を持っているという仮定に基づいています。

悲しくも実際には、投票者は政治家を正当に評価できるほど情報を持っておらず、汚職した政治家は選挙で懲らしめられる事なく再選してしまいます。本論文では、ブラジルの汚職対策政策の一部として2003年から行われている、地方自治体の抜き打ち監査を使って、「汚職の公然化」と「選挙結果」の因果関係を調べます。

### 抜き打ち監査プログラムに関して 2003年にルラ大統領政権のもとで始まったプログラムですが、監査対象になる地方自治体は抽選で選ばれます。 (因みに元大統領本人は汚職大魔王です。)

実際の様子はこちらの写真を見ていただくとよく状況がわかるかなと。

ブラジルでは中央政府から地方自治体にお金が与えられますが、運営自体は自治体に任されています。よって、地方政治家及び公務員が送られてきた資金を私利目的で使い可能性があります。よって、監査は資金使途のチェックが主です。監査後は約10日ほどすると、資金使途における「不規則性 (irregularity)」を要約したレポートがインターネット上で公開されます。

よって、この論文において「汚職」とみなされるのは、この資金使途における「不規則性」を指します。

データと識別戦略

この疑問を検証するにあってまず難しいのが、普通であれば「汚職の公然化」は内生変数であることです。一つの可能性としては、この変数が観察出来ない地方自治体の性質や自治体内の政治競争と関わっている事が挙げられます。もう一つの可能性として、(研究者に)みえない投票者の性質が汚職表面化に影響を与える事が考えられます。例えば、汚職表面化が投票者の努力によるものであれば、当然、投票者の努力は選挙結果を反映するものであり、独立内生変数が非独立変数によってもたらされたものということになります。

これらの可能性は「汚職の公然化」が選挙結果に及ぼす影響を識別する上で問題となるわけですが、本文では地方自治体の抜き打ち監査のランダム性を使ってこれらの問題をうまく乗り越えています。対象自治体は抽選でえらばれるので、「汚職の公然化」が各自治体特有の見えない性質と関わっている可能性はなくなります。

よって、著者たちは「汚職の公然化」の影響を測るにあたって、「選挙前に抜き打ち監査を受けた自治体の政治家」と「選挙後に抜き打ち監査を受けた自治体の政治家」を比較します。

ここで新たな問題が2つ。

一つは、「汚職の有無」という独立変数は汚職のスケールを無視するため、結果を解釈しづらいという問題です。残念ながら、著者達は資金使途不規則な各ケースの金額におけるスケールに関するデータを持っておらず、金額によって「汚職」を定義することが出来ません。よって、分析では「汚職の度合い」を少しでも見るために、「資金使途不規則なケースの件数」を「選挙前に抜き打ち監査を受けた自治体」とかけています。

2つ目の問題は、インターネットで資金使途の不規則性を公開しただけでは、特にブラジルの地方で収入及び教育レベルの低い地域において、一般投票者がこのレポートを読む可能性が低いという事です。投票者への汚職に関する情報が本当に伝わっているのかという要因を考慮するため、著者は「各自治体におけるラジオ局の有無」を回帰分析に加えます。ただし、この変数は内生的であるので、結果はあくまで相関的となります。

分析結果

主な結果は以下の通り。

  1. 「汚職の有無」だけでは特に再選に影響無し。
  2. 資金使途不規則な件数が3件あった自治体では、抜き打ち監査は政治家の再選確率を17.7%減少させた。
  3. 資金使途不規則な件数が3件あり且つラジオ局がある自治体では、抜き打ち監査は政治家の再選確率を16.1%減少させたのに対し、汚職レベルが同じでもラジオ局が無い自治体では、抜き打ち監査は再選確率を3.7%しか減らさなかった。
  4. 政治家の党によって抜き打ち監査の効果は変わらない。

感想・コメント

ブラジルの抜き打ち監査に関しては鈴木さんの研究を通して少しだけ知っていたのですが、この論文を通してもう少し詳しく学べました。 中米及び南米では大規模な政策がランダム化されていて、一研究者としては羨ましいです。w

監査が抜き打ちであることを上手に利用した上、投票者にその情報が届いているかラジオ局の有無を使ってしっかり考えられているとても面白い論文ですが、以下の点が気になりました。

  1. データがないのは仕方がないけど、やっぱり汚職のスケールによって効果が変わるか気になってしまう。 特に、解決案の提案はないのですが、論文出版から13年経って、これらの監査から出たレポート要約ではなく、レポート自体の公開はされてないのかなと思う。元のレポート自体は金額も含め多分もっといろいろ情報が書いてあるはず?

  2. ラジオ局の有無の内生に関する懸念がイマイチ抜けない。 「ラジオ局の有無」は特に自治体内の教育レベルに関わっている可能性が高い。分析中では、まさに識字力のある住人の割合を加えてこの懸念を考慮し、結果が大きく変わらないことを示す。ラジオ局の有無に対する操作変数があればいいのかな?ただ、具体的に何が操作変数になれるのが、データ環境を知らない私としては考えられず。。。

  3. 汚職のスケールに関して少しでも話すため、資金使途不規則な件数というデータをつかっているが、この件数が一体自治体の資金取引件数総数または総予算のどのくらいの割合に当たるのはわからない。

  4. 分析においては各州の固定効果が加えられているが、標準誤差は州クラスターで調整しなくていいのかな?

  5. 政治家の性質に関する変数も考慮されているが、過去に汚職が公然化されたかどうか関係があるか見ると面白いかなと思う。

最後の一言

今回も最後まで読んでくださってありがとうございます!

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ありがとうございました。

渋谷

コメント

鈴木

この論文はぼくも大好きです! 個人的にはラジオ局の有無を使った、情報の拡散が大事であることを示した部分が好きですが、渋谷さんの指摘する通り、「ラジオを聞けること」が自治体の何らかの性質と相関しており、その効果が出ている可能性はなきにしもあらずかなと思います。 ただ、論文では自治体レベルの demographic information (人口密度や貧困率など)や instirutional information (政党の数や裁判所の有無など)を使ってある程度はこの点に対処できているかなとも思いました。

僕自身この抜き打ち監査のプログラムを使った研究をしているので、このプログラムについてはチョットワカル状態なのですが、

  • レポート自体は当初から公開されているのですが、汚職の規模を金額スケールで表すことは元のレポートを読んだとしても難しいという話をブラジル人の共著者に聞きました(ちょっと理由は忘れてしまいましたが…)
  • 過去に抜き打ち監査を受けたことがその後の汚職にどう影響するかについては、実は Avis, Ferraz, and Finan (2018, JPE)が分析しています。同様に「監査が汚職にどのように影響を与えるか」という研究で言えばOlken (2007, JPE)もありますね。

あと、標準誤差については、今の基準では wild bootstrap を使って州レベルでクラスターすべきだと思います(ブラジルの州の数は27)。 ただ、クラスターの数が少ないときの wild bootstrap の有用性を示した Cameron et al. (2008)が当時はまだ浸透してなかったので、とりあえずheteroskedasticity-robustな標準誤差を使ったのかなと思います。

文献:

Avis, Eric, Claudio Ferraz, and Frederico Finan. “Do government audits reduce corruption? Estimating the impacts of exposing corrupt politicians.” Journal of Political Economy 126.5 (2018): 1912-1964.

Cameron, A. Colin, Jonah B. Gelbach, and Douglas L. Miller. “Bootstrap-based improvements for inference with clustered errors.” The Review of Economics and Statistics 90.3 (2008): 414-427.

Ferraz, C. and Finan, F., 2008. Exposing corrupt politicians: the effects of Brazil’s publicly released audits on electoral outcomes. The Quarterly journal of economics, 123(2), pp.703-745.

Olken, Benjamin A. “Monitoring corruption: evidence from a field experiment in Indonesia.” Journal of political Economy 115.2 (2007): 200-249.

Written on April 5, 2021