Bloch, Rao and Desai (2003): Wedding Celebrations as Conspicuous Consumption: Signaling Social Status in Rural India

新年明けましておめでとうございます。昨年は私達のブログを読んでいただきありがとうございます。 今年も自分たちの学びを少しでも楽しく共有できたらとおもますので、よろしくお願いいたします。

新年は毎月テーマを縛って論文を選ぶということを試みることにしました。

1月は御目出度い月ということで、テーマは「祭り、慣習、宗教」です。 本テーマ第一回目の本ブログは「結婚式」という慣習。

昔から気になっているのですが、なぜ人はお金と時間をかけて結婚式を行うのでしょうか。 結婚式は文化を超えて観察される慣習ですが、行う理由は文化、経済及び社会環境によって異なると思います。

結婚式は文化に関係なく行われるだけでなく、様々な文化において重要視されているようで、多大なお金と時間が投資されます。

とっても雑な数字で申し訳ないのですが、日本の結婚式事情は以下の通り 。 お馴染みゼクシイによると、挙式及び披露宴だけで平均355万円かかり、平均的なご祝儀を引いても121万円ほどかかるようです。 日本人男性の平均年間給与は567万円、女性の平均年間給与は280万円と考えると、平均結婚式費用は、男性平均給与の21%、女性平均給与の43%に値します。

私は結婚式にお金と時間を掛けたくなかったので、2日間ほどでさっと計画し、近所の国立公園のピクニック広場を14ドルで半日貸し切って、さらっと結婚式は済ませました。合計で1500ドル(約16万円)だったと思います。

このように結婚式に熱い思いを抱けない私としては、どうして人がこんなにお金をかけるのかとても気になってしまうのです。

よって今回はBlochさん, RaoさんDesaiさんによる、インドの農村地域における結婚式費用がどんな要素と関係するのか検証する論文について話します。

論文はこちらから。

概要:

本論文はインドの農村地域において、嫁入り時の持参金及び結婚式費用がどのように定められるのか検証する論文。 今回は結婚式費用に関する結果に焦点を当てて話します。

インド農村地域における結婚市場

結婚式費用の性質をより理解するために、インドの結婚市場の特徴を4点述べる。

  1. 結婚は準カースト内でおこる。
  2. お嫁さんはお婿さんの家族に「入る」もの。
  3. 結婚は嫁及び婿家族間で調整されるもの。
  4. 離婚は認められない。

更に、結婚式費用はほとんどの場合、嫁家族によって負担され、平均5000ルピー、平均世帯収入の約1/3に値する。 結婚式費用は持参金(平均世帯収入の6倍強)に比べるとかなり少ないが、それでも僅かな金額ではない。

加えて、著者によると,、インド人は自己の成功だけで自身を定義するのではなく、自分を取り囲む人々の達成、ステータスによっても定義する傾向にあるとこと。

これらの観察から著者は、嫁家族によって負担される結婚式費用は婿の家族のステータスを嫁家族が所属する農村のメンバーに示し、嫁家族自身のステータス向上につなげることに使われると課程。

データ

データはカルナタカ州の5つの地域からランダムに選ばれた800世帯から成り立つ。調査内容は世帯の行動、経済及び社会的ステータス、及び結婚と老後ケアに関するもの。結婚に関する質問は世帯内でランダムに選ばれた既婚女性が過去を振り返って記録されたもの。 総計内の既婚女性は370人。

OLS推定結果

婿家族が他の農村出身であると、お婿さんの教育年数と土地所有は結婚費用に大きく影響する。

これは、土地を所有しない世帯が大半であるインドの農村地域において土地を所有していることは高いステータスにつながる。 学歴も同じ。婿家族が他の農村出身であると、嫁家族が所属する村の世帯は婿家族の事をあまり知らないので、より盛大な結婚式をして農村メンバーに婿家族の高いステータスを知らせる必要があるからとのこと。

意見:

とってもあっさりした論文で、因果関係を実証する論文というより探索的論文という印象です。ただ、婿家族が他農村出身であることによって、嫁家族はステータス更新に関する情報発信を、結婚式を通して一層行うあたりの話がとても面白いと思いました。以下に、思ったことを挙げてみました。

  • 結婚式費用が何を含むのかあまり丁寧に説明されていない

結婚式費用が何を示すのか、調査中どのような質問をしてこの情報を得たのかもう少し丁寧に説明してあるといいなとおもった。というのも、もし質問が「結婚式にいくら使いましたか?」といったようなざっくりとした質問の仕方だと、人によって何を結婚式の費用と定義するが変わってしまうことが多い。加えて、本当に結婚費用の全額が嫁家族だけによって負担されたのか、データで見せてもらてるといいなと思う。(これは2点目に関係する。)

  • 婿家族のステータス(婿の学歴、土地)の内生性

著者は婿の学歴や土地といった婿家族のステータスを示す、社会及び経済的指標が結婚式費用にどう影響するかOLSによって推定している。ただ、これらの要素が結婚式費用に対して外因的であるとは少し考え難い。例えば、ステータスの高い婿家族が結婚式費用の一部を負担する為に嫁家族にお金を渡したりするかもしれない。そうなれば、婿家族のステータスと結婚式費用の関係は、嫁家族のステータスシグナリングではなく、婿家族が比較的お金持ちだからということになると思う。

  • 嫁家族のステータス向上\(\rightarrow\)経済的向上?

このステータスシグナリングによって、嫁家族にどんな経済的メリットがあるのかわかる論文がかけるといいなと思う。(これは若干自分への高望み。)

  • 結婚式とリスクシェアリングの関係

そもそもステータスシグナリング説はそこまで強いのだろうか。盛大な結婚式をすることで村内での絆を深め、将来困った時に助けてもらえる確率を増やすといった戦略は働いていないのかなと思う。これは鈴木さんが前に話していたリスクシェアリングに関わる。

最後の一言

今回も最後まで読んでくださってありがとうございます!

本ブログ記事に対するご感想や、本ブログ全体に関わるご意見などがあれば、econ.blog.japan@gmail.comまでご連絡ください! Twitterでの本ブログのコメント・拡散も歓迎です。その際は、#econjapanblogをお使いください。

ありがとうございました。

渋谷

コメント

鈴木:

私自身も好きな論文だったので、解説していただき嬉しいです!

この論文内のモデルでは、「婿家族の社会的ステータスが高いことを自分のコミュニティが知ること」から効用が得られると仮定されています。 これ自体はそこまでおかしい仮定ではないと思いますが、「その効用を得るためにそんなにたくさんお金かける?」という疑問が残ります。 例えば Banerjee and Duflo (2007)では、インドのウダイプール州の家計調査によると、お祭り・儀式にかける費用の中央値は家計所得の10%ほどにのぼると言われています。 「貧しい家計は信用制約があるために生産的な投資が行えず、貧困の罠にとらわれている」というような従来の研究結果を考えると、「じゃあこのお金を投資に回せばいいのに、どうしてそうしないの?」という疑問が生まれます。 考えられる理由の一つとして、「お祭り・儀式への出費からなにか経済的な便益を得ている」というものがあります。 例えば、渋谷さんや他の方が指摘されているようなリスクシェアリングのネットワーク構築のための投資などが考えられるでしょう。 …というような研究を今しているので、なんとか形になるといいなと思っています笑

また、「インドの異なる村出身者同士での結婚」でいうと、リスクシェアリング大好きっ子な私からするとRosenzweig and Stark (1989)には触れざるを得ません。 ざっくりいうと、彼らの研究では「結婚により異なる村にすむ家計同士でリスクシェアリングの関係を構築する」ということが実証されています。 これを考えると、同じ村の人と結婚する場合と異なる村の人と結婚する場合で、家計のリスク選好ないし生産活動(例えばどのような作物を育てるか)が異なる可能性はあるなと思いました。 今回の論文の実証パートでは、他の村出身者と結婚するかどうかは村ごとの外生的な社会規範に左右されるということが重要な仮定となっていますが、上の理由からこれはちょっと成り立たない可能性があると思います。

中村:

貧困や信用制約(credit constraint)がある中で多額の費用をなぜ結婚式や儀式に費やすのか、というテーマは一見不合理に見える現象を経済学を通して検証するという観点からすごい興味深いです。渋谷さんがおっしゃった様に、

  • ステータス向上のための先行投資、であるのか、
  • あるいはリスクシェアリングのためのネットワーク構築のための保険を購入する様なもの、 なのか、という大まかな分け方ができるのかとは私の様な素人の目には見えます。前者の場合はデータ収集などは難しいかもしれませんが、後者なのであれば、結婚式前後で農作物、機器のシェアや送金の頻度などを見てみると面白いな、とは思いました。

また、先行投資の要素が高いのであれば、例えば低カーストの人が高カーストの人と結婚する場合、より多くの持参金を持って行く、などのトレンドがあるのかとか、式の規模に限らず、結婚に関連した取引について見てみるのも面白いとは思います(ざっくりいえば、ステータスはお金で買えるのか、など)。環境は少し違いますが、インドネシアでは婿が嫁に持っていくBride Priceの額は嫁の学歴によって決められるため、嫁の家族はBride Priceを目論んだ教育関連の先行投資をする、という研究もなされています。

元橋:

シンプルな分析の論文だが、リサーチクエスチョンはとても魅力的。ステータス向上から効用を得るという人間らしいところに着目している。ふと思ったが、ステータス向上という意味では、人がたくさん集まる場である結婚式が一番効果があるのかな。良い車、携帯、新しい技術を持っていることを見せびらかすことで、ステータス向上を目指すのもありそうだが、結婚式はより効果が大きそう。娘・息子が良い大学に行くということもステータス向上になるなら、教育の投資もステータス向上の要素もあるのだろうか?

整理してみると、周りの人々が持っていなかったものを持つことによるステータス向上(0→1的なステータス向上)と、周りの人々が伝統的にしていることを盛大にすることによるステータス向上(1→100的なステータス向上)の違いがありそう。どちらが費用対効果が高いのか分析できたら面白そう。

文献:

Ashraf, N., Bau, N., Nunn, N. and Voena, A., 2020. Bride price and female education. Journal of Political Economy, 128(2), pp.591-641.

Bloch, F., Rao, V. and Desai, S., 2004. Wedding celebrations as conspicuous consumption signaling social status in rural India. Journal of Human Resources, 39(3), pp.675-695.

Banerjee, Abhijit, V., and Esther Duflo. 2007. “The Economic Lives of the Poor.” Journal of Economic Perspectives, 21 (1): 141-168.

Rosenzweig, Mark R., and Oded Stark. “Consumption smoothing, migration, and marriage: Evidence from rural India.” Journal of Political Economy 97.4 (1989): 905-926.

Written on January 11, 2021